ダンス必修化について書かれているのがあまりにもひどいので書くしかなかった。

公開するかとても迷いました。
このような話題はこういった場では特に静観を決め込んでいるのですが、ちょっとカチンとくる記事や日記、twitterのPOSTを見て勢いで書いてしまいました。
ただ、書いている途中で、やはり私は学校教育に関してはプログラムや授業計画など作ったことはないズブの素人なので、勉強会に出席したり伝え聞くことが多かったりしたとしても、そんな私が適当に書いたものを公開していいものかと思い、下書き保存し寝かせていました。


それでも、それで大人しくしているような人間であれば元々ブログなんか書いていないし、少しだけ現場やこの流れを知っている人間が、何か見られるものを少しだけ書いてもいいのかなと思い、やっぱり公開することにしました。
だって、現状どうしたって舞台芸術なんてマイナーなものに対して、直接的でなくとも誤解が広がっていくような状態はどうしてもスルー出来ないのです。


以下は、ダンスが体育の中でどのように扱われてきたのか、この施策にどのような思いがこめられているのかという流れをサラッとおさらいし、必修化以外での取り組みなどを紹介、そして最後に僭越ながら私の意見を述べさせていただく流れです。

1.ダンスと体育

まず、体育の中でのダンス流れを整理する。

■学校におけるダンス教育の現状とあらたな場を拓く文化施設への期待(PDF)

学校における舞踊教育 と生活文化としての舞踊の変遷一明治 ・大正期を概観して一(PDF)

もっと歴史に即した資料がありますが、リンクを貼れるものを選びました。


直結する流れだけ言うと、戦中の訓練としての側面から戦後はそうではなく次に何をするかという問題において「体操→体ほぐし→体気づき」と移行していったことや、もっと古くからだと女子やこどもが行う遊戯という言葉から発展をしていった経緯である。

つまり、ダンスを教育の場に持ってくる意義は、自分の体を知ること・体を動かす喜びを知ることなのである。

2.文言について

G ダンス
(1)次の運動について,感じを込めて踊ったり,みんなで自由に踊ったりする楽しさや喜びを味わい,イメージを深めた表現や踊りを通した交流や発表ができるようにする。
ア 創作ダンスでは,表したいテーマにふさわしいイメージをとらえ,個や群で,緩急強弱のある動きや空間の使い方で変化をつけて即興的に表現したり,簡単な作品にまとめたりして踊ること。
イ フォークダンスでは,踊り方の特徴をとらえ,音楽に合わせて特徴的なステップや動きと組み方で踊ること。
ウ 現代的なリズムのダンスでは,リズムの特徴をとらえ,変化とまとまりを付けて,リズムに乗って全身で踊ること。

(2)ダンスに自主的に取り組むとともに,互いの違いやよさを認め合おうとすること,自己の責任を果たそうとすることなどや,健康・安全を確保することができるようにする。

(3)ダンスの名称や用語,踊りの特徴と表現の仕方,体力の高め方,交流や発表の仕方などを理解し,自己の課題に応じた運動の取り組み方を工夫できるようにする。


引用元:新学習指導要領・生きる力 第2章 各教科 第7節 保健体育

あとは対照表(PDF)があるのでそちらの102Pから見ていただけたら分かりやすいかもしれない。

文章が長いのが嫌だという方はリーフレット(PDF)をご参照ください。
次でこういった変化や実施にあたり、どのような報道がなされたのかを見ていきます。

3.報道について

代表的と思われる(検索上位にくる)ものを少し取り上げる。いわゆる掲示板まとめブログも一応。

ダンス中学必修化で教諭「つらい」 指導法を模索、独学で勉強も:福井新聞


中学校の先生、ダンスに奮闘中 授業必修化で教室通いも:朝日新聞


ヒップホップに指導資格 中学のダンス必修化で:産経


「ダンス必修」歓迎?それとも? | web R25


中学ダンス必修化で先生悲鳴 「ヒップホップはやったことがない。正直つらい」:痛いニュース(ノ∀`)

まず、この報道から分かるダンス必修化の問題点とこの報道における問題点を整理したい。

  • ダンス必修化の問題点
    • 教師の準備が不足している中で必修化を始めた。
    • 子供たちが望んでいることか判然としない、現場の声を掬いあげない中で始めたのではないか。
  • この報道の問題点
    • 報道が「ストリートダンス」に焦点を絞りすぎている。
    • 必修化になった経緯や目的が掲載されていない。


必修化はいきなり始まったわけではなく、WSや講習会はあったが現状は報道のされているもので理解して良いと思う。ただ、教師は仕事に追われてそれらに参加する時間を中々とれない現状もある*1。加えて、生徒に対してだけでなく、教師に対しても問題は実施する内容である。


それらに関連する団体では、ストリートダンスでは専ら報道の中心である日本ストリートダンススタジオ協会(NSSA)ワールドリズムダンス協会、創作ダンスでは教育に強い日本女子体育連盟フォークダンスについてはフォークダンス連盟*2がある。
日本女子体育連盟に関しては教育に強いため*3セミナーなどでそれぞれの研修や報告発表がある。
共通してるのは検定や資格試験があることくらいで、傍から見る限り「ダンス」でまとまっている気配はないと言っていい。仕方ないのかもしれないが、何とも……


ここで、教育における現状を把握しやすくする事例集を少し挙げておく。

文科省の事例報告集


中学校ダンスの男女必修化の課題―中学校教員を対象とした調査にもとづいて―(PDF)


必修ではないがこちらも。
「触れ合う」実習についてー身体表現の授業実践よりー(PDF)

報道に関しては、確かにストリートダンス(現代的なリズムのダンス)は新たに加えられた項目で、選択している学校が多いので取り上げるべき話題ではあるが、「イマドキのダンスなら親しみやすい」という回答だけが辛うじて記述されているのみである。*4
確かに中学や高校のダンスの発表会では圧倒的にストリートダンスが多いし、上に挙げた調査報告書でもあくまでも教師からの回答ではあるが上位に挙げられている。


しかし、それよりもっと切実な問題として「評価のしやすさ」が考えられる。成績は付けなくてはならない、その到達点や基準をどこに設けるかは非常に問題だ。「体気づき」や「創作ダンス」の評価のしにくさと言ったら、言わずもがなであることはご理解頂けると思う。
それならフォークダンスだけでなく競技ダンスや伝統的な舞踊を選択肢に加えてもよかっただろうと思うところではある。*5


なんにせよ目的などはメジャーな報道では明記されておらず(一部報道では編集でしっかりカットされている)、それによって漠然とした疑問と反対が生まれやすいのではないかと思われる。
報告書や指導要領まで確認する人は稀であるので、そこはしっかりとやって欲しかった。(例えそれらを見たとしても、どうしたって納得のいかない場合もある。)

4.必修授業以外での取り組み

体育でのダンスではあるが、人前で何かを行う授業は得てしてネタやトラウマ的な記憶を生み出しやすい。そこで必要なのは教師と生徒・教師とコーディネーター、そしてそれぞれとアーティストの関係の構築である。


それについては、地域の施設や芸術団体が人員を学校に派遣するプログラムがある。
これは、学校とコミュニケーションを取り「芸術文化の授業でその学校では何が必要か」という点を議論してからダンスに限らず、音楽や演劇などのプログラムを組み立てていくものである。
これも例として2つほど挙げる。

世田谷パブリックシアター学芸事業
横浜市芸術文化教育プラットフォーム

まとめ

個人的には体育においての「必修化」は時期尚早であり、多様なものに必ず触れられると言っても選択制で良かったのではないかと思っている。
3で挙げた問題点(授業内容がどうか)の解決には、4の必修授業以外での取り組みの事例の検討や整備が重要なのではないかと思う。必修授業において外部から招くことはどこも簡単にできることではないし、「体育」となると難しい面もあるかもしれないが、指導要領から外れるものではないように思われる。


人前で何かをするのは、例え型があってもとても勇気がいるものである。「表現」などと謳われてしまえば尚更である。今、舞台芸術に関わっている人間ですらダンス等の授業や芸術の授業で良い記憶を持っている人間は多くない。このままいけば、生徒の記憶のネタとトラウマに拍車をかけるだけではないだろうか。


だから指導要領は慎重に言葉を紡いだとは思うが大義名分だけじゃ厳しい。それに、3つに分けられたダンス間(特に代表的な団体間)での協力も進まないといけない。あとは変な授業のバランスとは異なるところでのパワーバランスはどうにかならないと。


ただ、単純に技能や見栄えだけじゃない、そういう面白さもダンスにはあると思うので、教育の場での役割には期待しているところはある。


いくつか断言をしているところがあるのに具体的に書かないのは、説得力がアレだと思うので本当に申し訳ないのですが、コレがソレだからです。コレがソレになったりしたら消します。

*1:教師向けは大体のものが参加者は少ない。多いからと言っていいかというのは別だが、必修化に関しては多いほうがいいのではないか。

*2:フォークダンス連盟に関してはよさげな報告書などが見当たらなかったが、NPOなどならば報告書はあるだろうか

*3:指導要領やリンク先を見れば分かるだろう。

*4:報告書はあるが、始まったばかりなので現場の声を取り上げる取材は難しいこともあるだろう。

*5:そんなことを言っていると教育としてのダンス・文化としてのダンス・芸術としてのダンスとか面倒な方向に行ってしまいそうでもある。